発達障害療育研究所 アスペルガー症候群(高機能自閉症)を中心として

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CD38、オキシトシン

 CD38,オキシトシンと発達障害との関連について検討してみたい。2月8日のテレビ放送及び新聞報道で、発達障害の症状改善の可能性があるという記事が掲載されたからである。

 手元にある資料は、Nature 論文骨子(英文)、論文概要(和文)、プレスリリース(和文)、新聞記事(平成19年2月8日付日本経済新聞、毎日新聞、朝日新聞、中日新聞)である。Nature論文本文は未だ入手していない。

1.研究主体と研究目標

  1. 研究主体

    1. 東北大学大学院医学系研究科先端再生生命科学(江東微生物研究所)寄附講座 岡本宏名誉教授 高澤伸教授グループ(以下岡本グループという)。

    2. 金沢大学21世紀COEプロジェクト「革新脳科学」拠点リーダー東田陽博教授グループ(以下東田グループという)。

    3. 群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座神経生理学分野平井宏和教授グループ(以下平井グループという)。
      共同研究者28名。


  2. 研究目標

    1. 岡本グループ

    2.  岡本グループの研究目標は再生医学(損傷あるいは欠損した生体組織や臓器を人工材料に頼らず自己再生すること)である。

       同グループの出発点は糖尿病の研究にあり、「岡本モデル」と言われる統一的機構を提唱した。このモデルは1999年、ノックアウトマウスを用いた研究で確認された。

       このノックアウトマウスが、CD38を欠損したマウスである。
      (プレスリリース、東北大学大学院医学系研究科医学部ホームページより)

    3. 東田グループ


    4.  東田グループの研究目標は発達障害にある。「発達・学習・記憶と障害の革新脳科学の創成」プログラムの発足以来、自閉症を含む発達障害の原因究明を中心課題としてきた。

       岡本グループとの共同研究の経緯を上記資料から明確に読みとることは難しいが、CD38について10年余共同で研究してきたと記載されている。

    5. 平井グループ

       平井グループの研究目標は、レスキューマウスの作出とその応用にある。

       レスキューマウスとは、ノックアウトマウスのある1つの領域、あるいは細胞群にのみ欠損している遺伝子を回復させたマウスである。同グループでは、特定の領域に限局した遺伝子のレスキュー法として、ウィルスベクターを用いる方法が有効と考えている。(群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座神経生理学分野ホームページより)
 共同研究の経緯を上記資料から明確に読みとることは難しい。CD38について10年余、東田グループと岡本グループとが共同で研究してきたと記載されている。また、平井グループは4年前からレンチウィルスベクターなどを用いた研究を進めてきたと説明している

2.CD分類

 CD分類とは、モノクローナル抗体の国際分類のこと。
 (cluster of differentiation 又はCluster Designation)

 CD分類で付与された番号及び記号がCD番号である。CD1aから400種類近くの番号が振り分けられている。番号に特別な意味はなく、CD38はその1つである。

 Nature論文骨子で糖たんぱく質(glycoprotein)と説明しているため、報道ではたんぱく質としている。

 CD38の役割は従来不明であったが、今回の研究でその機能が解明されたようである。

3.オキシトシン(Oxytocin,OT)

 オキシトシンは、下垂体後葉から分泌されるホルモンの一種で、陣痛促進剤としての使用は既に臨床で行われている。

 発達障害との関連も、概略的には、既に指摘されているところである。
 (Neuropsychopharmacology 2003.1.28)

4.論文内容

 「サイクリックADPリボースはNADから作られる細胞内情報伝達物質で、ホルモン分泌の引き金となる細胞内Ca2+濃度を上昇させる働きを持つ。

 CD38はこのサイクリックADPリボースをNADから作る重要な酵素である。

今回の研究で、
  1. CD38欠損マウスでは下垂体後葉でサイクリックADPリボースが低下しているため、細胞内のCa2+濃度が十分に上昇しない。

  2. このためオキシトシンの分泌が低下し、血中・脳脊髄液中のオキシトシン濃度が低下している。

  3. この結果CD38欠損雌マウスでは保育行動の低下、

  4. CD38欠損雄マウスで他の個体を認識記憶する能力(社会認識力)の低下といった社会行動異常が認められる。

  5. 社会行動の異常は脳室内にCD38発現ウイルスを接種すると正常に回復するが、

  6. 糖尿病患者で発見された酵素活性の低下した遺伝子変異を持つCD38の発現ウイルスでは回復できない。
 ことを見出し、CD38がオキシトシンの分泌を調節して、社会行動を制御することが明らかになった。」(プレスリリース和文より抜粋)

5.新聞記事記載事項

  日本経済新聞 朝日新聞 毎日新聞 中日新聞
大見出し 社会性ホルモン
分泌関与物質を特定
社会行動に影響たんぱく質特定
金沢大グループ(朝日新聞)
相手認識ホルモン分泌促進 発達障害の治療に道
中見出し 金沢大など、ネズミから 認識や愛情行動促す物質を特定、
治療へ応用も
金沢大(asahi.com)
白血球内たんぱく分子
金沢大大学院が究明
 

 テレビ放送では、NHK,テレビ金沢が取り上げたようである。NHKでは「発達障害 たんぱく質が関与か」、テレビ金沢では、「発達障害治療に光、金沢大医学部が研究」と題して紹介している。

 報道では、CD38とオキシトシンに関する説明しか見当たらないが、論文では、上記のように複雑なプロセスを経て社会行動の異常に至ることを論じている。

6.発達障害改善への寄与

 報道では、今回の研究成果が発達障害治療に役立つ可能性があるとしている。

 上記資料を読んで素人なりに考えると、CD38が何故減少したのか、オキシトシンを投与して異常が見られなくなったとしても、投与を中止した後の経過がどうなのか、疑問は残る。

 検索エンジンでCD38などをキーワードとして検索すると、あたかも発達障害の治療薬に直結するかのような記述がブログなどに見られるが、気が早いと思える。

・・・CD38・・ may be an element in neurodevelopmental disorders.
(Nature 論文骨子)

 論文骨子は、「1つの要因かもしれない」と言っているだけである。研究者 としての慎重さ故であろうが、この面からの治療薬が短時日で開発できるとは、考えない方が無難であろう。
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