発達障害療育研究所 アスペルガー症候群(高機能自閉症)を中心として

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恐怖の食卓(フジテレビ)とADHD

 フジテレビが平成18年9月28日に放送した「恐怖の食卓」の内容に問題があったとして、同局がそのホームページで謝罪したと報じられた(平成19年3月31日付け毎日新聞夕刊)。

 NPO法人えじそんくらぶ(ADHD等のための支援団体)などが、フジテレビに対し放送内容に関して抗議すると共に、同局に謝罪等を請求し、半年近くの折衝の結果今回の合意を得た。

1.番組内容

 本サイトでは放送を視聴していないので、番組内容をえじそんくらぶホームページからそのまま借用すると、下記の通りである。

・番組内容(録画したDVDより起こしました)
松本伊代さんのお子さんの食生活を例に挙げ、高脂質・高たんぱくの食事を続け3年後に罹患する可能性のある病名を各診療科目の医師がパネルに掲示する。
ここで、脳神経科の馬場医師が「AD」と掲示。その後、VTRで「AD」等の説明が始まる。
  1. このような食事は脳にも悪影響を与え、「AD」という聞きなれない病気を引き起こす。


  2. 代表的症状は、ちょっとしたことで突然キレること。


  3. 正式には「注意欠陥多動性障害」と言われ、近年多発する未成年の凶悪な事件も、この病気が一因だと言われている。画面には「AD/HD 注意欠陥・多動性障害 近年増えている少年犯罪の一因と考えられている」というテロップ。背景に、北海道新聞・読売新聞・中日新聞の少年犯罪の記事が放映される。

  4. キレるだけでなく、精神的にも不安定になり、引きこもりやうつ病になることも。
    脳神経ドクター馬場武彦氏のコメント「現在20人に一人の子どもがAD/HDであると報告されている」

  5. ビタミンやミネラルを豊富に含む日本食を、最近の子どもたちが食べなくなったことが原因の一つと考えられている。

  6. 以上を、非常に扇情的なナレーションで伝える。
 以上が、放送内容としてホームページに掲載されている。

2.えじそんくらぶの主張

 えじそんくらぶとフジテレビとの具体的交渉経過は、えじそんくらぶのホームページを御覧いただくとして、ここでは、えじそんくらぶの主張の一部を抜粋して紹介したい。
  1. 食事との因果関係について

    食生活の乱れ → キレやすい → ADHDになる → 凶悪事件を引き起こす

    フジテレビの放送内容は、えじそんくらぶの見解では上記のように図式化される。

     これに対して、えじそんくらぶは、「食生活の乱れ→キレやすい」は栄養学的に科学的エビデンスがあり、「キレやすい児・者のなかにAD/HDのある人がいる」ことも事実である。続けて、「食生活の乱れ→キレやすい→AD/HD」という見解は、現在のこの分野の専門家の中にはない、としている。(えじそんくらぶ2006年10月7日意見書、5 NPO法人えじそんくらぶの見解1))

     フジテレビからの釈明は、次に示すとおり、8行程度の引用で終わっている。

     食生活との関係については、「AD/HD(注意欠陥/多動性障害)のすべてがわかる本」市川宏伸監修において「AD/HDの症状は、生まれながらの脳の機能障害だけで決まるわけではありません。保護者の養育態度や兄弟との人間関係、生活環境など、後天的な要素が影響を与えています(p43)」との記載があり、また「キレる青少年の心」宮下一博・大野久編著(北大路書房)p59においては「食事とキレ」というコラムで「ビタミンやミネラルの欠乏とキレることとの関係が示されていること」が根拠として挙げられると思います(平成18年12月27日付け回答書1.)。

  2. 少年事件との関連

    1. の図式のうち最後の部分を抜き書きすると、次のようになる。

     ADHDになる → 凶悪事件を引き起こす

     番組において、AD/HDは、未成年の凶悪事件の一因と言われている、という趣旨の発言があり、テロップにも同趣旨の記載があったようである。

     これに対し、えじそんくらぶは強く抗議し、フジテレビも行き過ぎを認めた。

3.フジテレビの謝罪文

 えじそんくらぶのホームページに掲載されたフジテレビ謝罪文をそのまま転記すると次の通りである。(平成19年3月26日から同年6月10日までフジテレビのホームページに掲載)
視聴者の皆様へ
潟tジテレビジョン
平成18年9月28日(木)午後7時から8時54分放送の「恐怖の食卓」におきまして、
AD/HD(注意欠陥/多動性障害)の発症原因の1つに食生活があるとの内容を放送しました。

本番組は視聴者の皆様の食生活への関心と理解を深めてもらうため、出演者の日常における食生活の内容を医学の専門家の意見に基づいて分析し、健康維持の一助になる情報を提供する事が、主な制作の意図でした。

しかしながら、AD/HDと食事との因果関係は現代医学でも未だ十分に解明されておりません。そのような状況の中、食事が発症原因の一つと表現してしまったことは、誤りであったと思います。また、将来的にAD/HDが少年犯罪と関連するかのような表現を用いた点については、行き過ぎたものと反省しております。

今回の番組放映により、実際にAD/HDと診断されている方々と保護者の方々、およびその治療に日々取り組んでおられる関係者の皆様にご迷惑をお掛け致しました。
深くお詫び申し上げます。

今後はAD/HDのみならず、原因が究明されていない事象を扱う際は細心の注意を払いつつ、一層幅広い取材と学習のもと、責任ある番組作りを行なっていきたいと思います。

4.本サイトの見解

  1. ADHDと少年犯罪との関連

     ADHDを少年犯罪に関連するかのように表現した番組制作姿勢は、認容できることではない。えじそんくらぶばかりでなく、すべての関係者が同意見であろうし、本サイトも例外ではない。

  2. ADHDと食生活との関連

     残念でならないのは、食生活とADHD発症との関連を否定したことである。

【えじそんくらぶの主張に関連して】

 「現代の児童精神医学では、ADHDは生来的な中枢神経系の発達のアンバランスと理解される。」

 「食事の問題が(中略)中心的な原因ではない。」

(いずれも、えじそんくらぶ2006年12月6日付け意見書2,確認事項1))  「生来」とは、生まれつき、と国語辞典では説明される(日本語大辞典、講談社)。先天的、と解してよいであろう。

 仮にADHDが生来的な原因によるのであれば、フジテレビが提示した次の見解をどのように評価すべきだろうか。

  成人後の状態
30% 成人期までには症状がなくなる。
40% AD/HDの症状が残存していることに加えて、社会的ないし、情緒的困難が見られる。
30% AD/HDの症状ばかりでなく、アルコール症、薬物依存、反社会的行動など深刻な問題が見られる。
新児童精神医学入門(中根晃著、金剛出版社)
フジテレビ回答書より孫引きして、一覧表作成。

 ADHD児のうち30%が成人期までに症状がなくなる、と紹介されている。生来的原因による症状が成人期までになくなることは疑問に思えてならない。


【フジテレビの釈明に関連して】

 えじそんくらぶの主張に対して、フジテレビからの釈明は、2.1)に紹介した回答書(平成18年12月27日付)における引用にとどまっている。

 「AD/HDの症状は、生まれながらの脳の機能障害だけで決まるわけではありません。保護者の養育態度や兄弟との人間関係、生活環境など、後天的な要素が影響を与えています。」

 そして謝罪文において、フジテレビは「AD/HDと食事との因果関係は現代医学でも未だ十分に解明されておりません。そのような状況の中、食事が発症原因の一つと表現してしまったことは、誤りであった」として、食事との因果関係を否定した。

 しかし、食生活との関連を全面否定することは、かえってADHD原因解明の芽を摘むことにならないだろうか。


【一致率の研究】

 自閉症の遺伝的研究において、一致率がしばしば検討される。一致率とは、一卵性双生児の一方が自閉症である場合に、他方も自閉症である確率である。自閉症が素因(遺伝的体質)によってのみ発症するならば、一卵性双生児の一致率は100%でなければならない。

 しかし、現実には、一致率は100%を下回る(60〜90%の間)との研究結果が紹介されている(デビッド・ポールズ博士講演録自閉症の遺伝学、ハーバード大学医学部精神科(遺伝学)教授)。また、東京大学医学部精神神経科監修のホームページでは一致率40〜90%を紹介しているが、極端な差異とは思えない。一致率が50%前後を超えることは、素因が強く働くことを示すと共に、一致率が100%を下回ることは、自閉症の発症が素因以外も関連することを意味する。

 「ADHDでは、一卵性双生児の一致率(片方の子がある疾患であった場合にもう片方が同じ疾患である確率)が80-90%、PDDでは80-96%と両者とも遺伝の関与が強いと考えられています。」(個性的な発達をする子どもたち−発達障害の理解−石崎 朝世(社)発達協会王子クリニック・小児科医)

 えじそんくらぶが引用するように、「ADHDは生来的な中枢神経系の発達のアンバランス」であるならば、素因によってのみ発症することになる。しかし、ADHDに関しても一卵性双生児の一致率が100%でないことは、この主張と対立することとなる。


【有機金属と発達障害】

 平成16年3月7日、TBSテレビが自閉症の原因が水銀とする番組を放送した。同年3月14日付けで、自閉症児者を家族に持つ医師・歯科医師の会(以下AFD)から反論が出された。

 しかしその後、前出のデビッド・ポールズ博士は講演の最後に、2004年(平成16年)に発表された自閉症の遺伝学についての医学文献の中で、注目すべき論文として、加藤進昌教授らの「有機金属(スズ、水銀など)と行動発達障害」(BRAIN MEDICAL 2004年12月号所収)を紹介している。

 「金属の輸送に関する遺伝子の自閉症での関連研究で、大変興味深く、追試が必要とは思いましたが、身体の中で金属の輸送に関わる遺伝子が自閉症に関係しており、特定の金属が蓄積すると自閉症を発症するということになれば、これは遺伝的要因と環境要因の相互作用についての研究のよい例だと思いました。」

 ポールズ博士は自閉症とトゥレット症候群への言及にとどまり、ADHDについては語っていない。だからといって、ADHDの原因物質存在を否定しているとは思えない。


【研究者の主張】

 水俣病、イタイイタイ病は、原因物質が不明の間は、医師も研究者も水銀、カドミウムとの関連を指摘しなかった。一部の医師が原因物質を特定した後も、反対意見が出された時期がある。しかし、現在では水銀、カドミウムの大量摂取と体内蓄積が原因であることは定説である。

 AFDは反論の末尾で、自閉症水銀原因説の反対論文3,賛成論文1を例示している。論文の本数では確かに多数に違いないが、TBS放送後も賛成論文が発表され、それを支持する声がある以上、原因物質(水銀に限定する必要はない)を究明することは無意味ではないであろう。

 これと同じことがADHDについても言えるかもしれない。ADHD発症原因の1つが原因物質の摂取とその体内蓄積であると仮定すれば、少なくとも一部については、食生活とADHDとが関連すると判断して差し支えないであろう。原因物質が食材に混入すれば、食生活次第でADHD発症の可能性があるからである。


【番組制作】

 「食生活が関連する」というのがフジテレビの制作目的のようである。放送では、「ビタミンやミネラルを豊富に含む日本食を、最近の子どもたちが食べなくなったことが原因の一つと考えられている。」(番組内容D)との説明があった。

 えじそんくらぶのホームページを読む限り、この点の議論が見当たらない。推測するに、「高脂質・高たんぱくの食事」に議論の重点が置かれたのかもしれない。

 しかし、食生活との関連を議論するなら、ビタミン、ミネラルなどを食材から摂取し、効果の有無を検証すべきではなかったか。えじそんくらぶ、フジテレビいずれの主張が正しいか、または一部正しいか、医師、研究者監修の上で検証すべきではなかったか。

 えじそんくらぶは、当初、「正確な情報を伝える番組の製作と放送」を請求したのに、折衝後期には「次回同シリーズ番組を放送するときの告知等」と変化し、結局告知をしないことで決着したようである。「メールでの厳しいやりとり」は外部からは想像するしかない。
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